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大阪地方裁判所 昭和43年(行ク)65号 決定 1968年10月21日

申立人

日本社会主義青年同盟

大阪地区本部

右代表者

西村祐紘

右代理人

岡田義雄

右同

松本健男

被申立人

大阪府曾根崎警察署長

松原大司

右代理人検事

広木重喜

ほか一〇名

右代理人弁護士

道工隆三

ほか三名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、申立人の申請の趣旨および理由は、別紙一、二に記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は、別紙三に記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)  本件申立ならびに疎明によれば、申立人は、反戦反安保沖繩奪還等を広く国民各層に訴えるため、昭和四三年一〇月二一日の国際反戦デーを期し、大阪市役所南側中之島公園に集合した後、同日一九時三〇分から二一時三〇分頃までの間、図書館南西角階段(上がる)―せんだんのき橋―北浜三丁目―淀屋橋南詰―肥後橋―渡辺橋―堂島中町―桜橋―中郵前交差点―大阪駅前南西角路上(解散)に至る経路で、社青同の外労組青年部、職場反戦、地区反戦、高校反戦、自治会共斗ほか民主団体、参加予定人員約五、〇〇〇人を中心として、集団示威行進を行うべく、同月一六日、大阪府公安委員会に対し集団行進等の許可を申請したところ、被申立人が同月一九日右申請に対し、右公安委員会の集団示威行進の許可とならんで集団示威行進に伴う道路の使用に関し『(1)申請のあつた集団示威行進の解散地点「中郵前交差点〜大阪駅前南西角路上(解散)とある部分を「中郵前交差点西側の新阪神ビル西北角路上」に変更する。(2)行進は、四列縦隊で約二〇〇名で一隊をつくり、各隊の間は約五〇メートルあけること。(3)次の通行区分により行進すること。(イ)出発地から肥後橋交差点までは、車道をその右側端に寄つて行進すること。(ロ)肥後橋交差点から解散地までは、車道をその左側端に寄つて行進すること。(4)出発時刻、行進経路を変更しないこと。解散は指定の場所で到着順に流れ解散すること。(5)前各号の定めるもののほか、道路交通法の規定に従うこと。(6)主催者または現場責任者は、行進出発前に直接参加者全員に対し、前各号の条件を繰り返し放送するなどの方法により周知徹底させること』の条件を付して許可する旨決定したことが認められる。

(二)  右の事実関係のもとにおいては、申立人の申請にかかる本件集団示威行進の終着地点は、大阪駅前南西角路上であると認めるのが相当であり、右地点はなお本件集団示威行進の進路範囲内であると解されるから、右と異り、被申立人が「中郵前交差点―大阪駅前南西角路上(解散)」とある部分を「中郵前交差点西側の新阪神ビル西北角路上」と変更したことに関する本件執行停止の申立は、集団示威行進の本質にかんがみ、処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるものと認めるのが相当である。

(三)  ところで、本件疎明によれば、本件中郵前交差点ならびに大阪駅前南西角路上付近の位置および地理関係は別紙図面のとおりであり、同所における本件集団示威行進の申請方向は、A矢印、許可にかかる変更方向はB矢印であることが明らかである。

しかして、被申立人の疎明によれば、本件中郵前交差点ならびに大阪駅前南西角路上は、同駅の南西方に位置し、その周辺には、国鉄東海道線および大阪環状線の大阪駅、京阪神急行電鉄および阪神電鉄の各梅田駅、地下鉄一号線の梅田駅、同二号線の東梅田駅、同三号線の西梅田駅、大阪市営の路線バスの乗降場等が集中していて、これらの交通機関を利用する乗降客は一日約二、四〇〇、〇〇〇人にのぼること、更に右交差点の南方では、大阪市道南北線約二〇〇メートルを経て国道二号線と交差し、東方では、大阪市道大阪駅前線を経て阪急阪神前において国道一七六号線、扇町線等とそれぞれ交差し、西方では、約一五〇メートルで阪神高速道路梅田入路に接し、北方では、大阪市道梅田線約二〇〇メートルを経て梅田海老江線とT字型に交つていて、道路交通上の要衝であり、大阪市は勿論同市周辺の交通の扇の要であつて、この地域における交通の事情は、極めて広範囲にわたつて重大な影響を及ぼす位置を占めていること、本件中郵前交差点ならびに大阪駅前南西角路上付近は、三本の大道路が変形に交差する事実上の五叉路であつて、同地域における交通規制は極めて複雑かつ困難である上、夜間においても極めて多数の車両が同地域を通行し、又右折あるいは左折する車両も多数存することをそれぞれ認めることができる。

以上において認定した事実関係、即ち、本件中郵前交差点ならびに大阪駅前南西角付近路上の位置関係、形態、交通量、その外本件集団示威行進に多数の参加予定人員があること、右行進が南から北へ大阪駅前南西路上に向けて横断せんとする時刻、および右横断に要する時間等を考え合わせると、大阪駅前南西角路上まで本件集団示威行進が行なわれ、同地点において解散するとすれば、道路における一般交通が広範囲にわたつていちぢるしく阻害される虞れがあると考えられる。(本件疎明によれば、従来の集団示威行進はこれらの事態を避けるため、中郵前交差点付近を終着地点とする場合には、新阪神ビル西北角路上を解散地点とするのが通常であつた。なお今回の同月二一日大阪総評が主催する集団示威行進もこれにならつている。)

このようにみてくると、本件申立は、行政事件訴訟法二五条三項にいう、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、に該当すると認めるのが相当である。

(四)  よつて、申立人の本件申立は理由がなく失当であるから、これを却下し、申立費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。(石崎甚八 仲江利政 喜多村治雄)

別紙図面<省略>

別紙(一)――申立書<省略>

別紙(二)――準備書面<省略>

別紙(三)――意見書<省略>

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